今使っているミノーは昨年8本作ったうちの最後のひとつだ。
他のミノーたちが次々と紛失、根掛、大破により玉砕していく中で、
今日まで何尾もの渓魚を捕らえてきてくれた貴重な一個である。
次回からは今年のモデルを使うつもりなので、彼にとっては今日が最後の仕事となる。
その記念すべき仕事収めにふさわしい魚をゲットするべく僕も努力しているのだった。
山肌の斜面に、しがみつくようにして花を咲かせている桜の木。
川原のあちこちに揺れる枯れ枝、よく見ると小さな緑の芽をつけている。
景色はまもなく茶色から鮮やかなグリーンに変わり、蒸れるような森の匂いが立ち込めるだろう。
早瀬の窪みにミノーを走らせると、無邪気な小イワナが絡みついてきた。
目の前でガマ蛙がいちゃついている。
山にもやっと春が巡ってきた。
全神経を集中して、小さな落ち込みも見逃さないように釣り上がる。
札掛登山道を過ぎた辺りに、滝のように流れ込んでいる支流がある。
その横に深場があった。
そこは白泡のおかげで酸素量が豊富な場所。
そして身を隠すための岩と深い淵、僕が魚だったらきっと住むだろう。
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