春雨が森を濡らしている。
木の葉から落ちる水滴が、僕のレインジャケットに当るとポタポタと音を鳴らした。
時計の針は午後1時、数時間キャストし続けるがコツリとも来ない。
白いため息をつくと、偏光グラスがスーっと曇る。
「休憩しよう」
キャンプ場跡地には放置されたままの古いバンガローがいくつも立っている。
その中の一棟にもぐり込み、雨露をしのぎながら弁当を広げた。
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解禁日の布川は水量も豊富、至る所に魚の居つきそうなポイントを確認できる。
その淵の底にはイワナが隠れているに違いない。
底石の隙間に数匹、いや数十匹がひしめき合っているかも知れないのだ。
そんな素敵なポイントに、うまくキャストできたとしても彼らは見向きもしない。
3時を過ぎた頃、あきらめて中津川合流点まで戻ってしまった。
多くの釣り人でにぎわう中津川、
その流れは激しく、水中には無数の枯れ葉が流れていく。
それがミノーに絡みつき、何度も取り払いながらのキャストはつらい。
200メートルほど釣り上がると水中に魚篭が沈めてあった。
中をのぞくと良型ヤマメが3尾入っている。
他人の釣果とはいえ、本日初めて見る魚は実にうれしい。
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辺りはぼんやりと暗くなり、塩水橋まで釣果ゼロ。
もうやめようと林道脇の崖を登ろうとしたとき、ある流れ込みが妙に気になった。
その流れ込みの小さな白泡めがけてキャストしてみる。
その後、狂ったようにトゥイッチを入れた。
すると「ブルブルブル・・」
小さいけど、魚信は確実にヤマメ特有のものだ。
「やったー!」
16センチの元気なヤマメ、疲れも一気に吹き飛んでしまった。
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辺りはもう薄暗い。
一人の餌釣り師が崖から降りてきて「ずいぶん頑張りますねー」と言った。
お互い様なのである。
彼は遠慮気味に上流を指差し、「上、やられますか?」と聞いてきた。
その紳士的な態度に僕も応え、「いえ、もう満足しましたからどうぞ」と手を添えて言った。
彼は軽く会釈をすると暗くなりかけた雨の塩水へ消えて行った。
今日の釣行が、こんなに気分の良いものになるとは数時間前までは想像もつかないことだった。 |
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