| 2006/03/08 ブラックイワナをブラクリで釣る |
「がっ!」と思わず声が出る。
「ちっきしょ!」と言って何度も地団駄を踏んだ。
水沢川に入ってから最初の滝で良型ヤマメがヒット。
不安定な足場でふらつきながらも懸命にリトリーブを続けた。
ところがヤマメも必死にフックを振り払おうとする。
やっと足元まで引き寄せたのに、手を伸ばした瞬間に水の奥へと消えてしまったのだ。
|
僕の背中に朝の太陽があたり、足元に長い影を落とした。
水中に釣り人の影が映ると魚は出てこない。
立ち位置を気にしながら釣り上がるのにも疲れてしまった。
一休みしていると上流から釣り人が降りてくる。
小さな川を釣り上る者にとって、上から人が来るのは致命的とも言えるだろう。
しばらく目を合わせなかったが、向こうから声をかけてきた。
「こんにちは!」
爽やかな青年である。
はりのある屈託のない声を無視するわけにもいかず、こちらも笑顔を作った。
聞けば夜明け前の暗い林道を一人で終点まで登り、明るくなるのを待ってから釣り下って来たという。
青年は「ダメです、まったく釣れない」と言った。
「どうですか?」と聞いてきたので、
「1尾・・」とこたえる。
その後で、「バラしたけど・・」と付け加えた。
|
「がっ!」っと叫んだ場所 |
水中に影を落としてはいけない |
「がんばってください!」
青年釣り師が爽やかに去って行くと、僕は彼の足跡がベッタリと付いた岩の間にキャストした。
歩くくらいの速さでゆっくりと岩の横をトレースしてゆく。
一瞬、黒い影がスッと出てすぐに引き返した。
そこで僕が思いついた作戦はブラクリだ。
岩に入った渓流魚に光物をちらつかせるとたまらずに出てくることがある。
|
岩肌ギリギリをブラクリで狙う |
みるみる肌の色が変化した |
さっそく、そいつが潜んでいると思われる岩の後ろにまわり、taki_minnow を垂直に落とし入れる。
ロッドを上下に動かすと、ミノーはタツノオトシゴのような動きをした。
次の瞬間、黒い影はそのタツノオトシゴに突進してきた。
ラインが1メートルほどしか出ていないので魚信がダイレクトに伝わってくる。
急いで引き上げると、黒い物体が僕の顔を通り過ぎて乾いた小石にドサリと落ちた。
魚体はみごとに真っ黒、まるでタンカー事故にでもあった魚のようだ。
その肌にはイワナ模様とパーマークが混在している。
すぐに水に戻してやると、みるみる色が変化して普通のイワナの肌になった。
姿形はヤマメのそれである。
しかし肌はイワナだ。
その不思議な魚を見せたくて青年の姿を探したが、枯草がゆれているだけで彼の姿はどこにもなかった。
|
|