「こんにちは!」 どこからか声がする。
見上げるとリュックを背負った釣り人が片手を上げて合図をしていた。
大洞キャンプ場跡地の川原から急な崖を登って、彼の立っている林道まであと少しだ。
「こんにちは〜」
僕は息を切らし、かすれた声で返答した。
「餌を流してもぜんぜん釣れない、魚はゼロです」と彼が言う。
ベテラン釣り師にとって解禁日の釣果ゼロは屈辱に近い。
彼は午前3時に家を出て、僕がこれから行く唐沢橋の上流を隈なく探ってきたらしい。
「下流もダメですよ。普段はルアーに驚いて逃げたりするんですが、それもないです」
結局我々は、お互いが目指す釣り場のネガティブ情報を知ってしまう羽目になった。
別れ際に電話番号を交換し、釣れたら知らせる約束をしたのだが未だ着信もない。
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林道をしばらく歩くと唐沢橋のゲートにガードマンが立っている。
「ここは立ち入り禁止区域だ、どこから来たんだ?」
沢から上がって来たというと「蟻一匹通すなと言われてるんだよ」
現在、大洞トンネル付近では大規模な工事が行われている。
時おり金属的な爆音が山々を雷鳴のように震わせている。
その振動は魚にも伝わり、彼らは岩の陰でじっとしているに違いない。
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春の布川は渇水だった |
魚道に水が無いのは珍しい |
水量の少ないフラットな流れ、何層にも重なった落ち葉の上をパリパリと音を立てながら歩く。
淵の淀みには落ち葉が溜り、大きな天井を作っている。
その下からイワナがミノーを追って出てきた。
「食え、食え!」
必死に竿先を振るわせる。
警戒し、近づきつつも食うかどうか迷っている様子だ。
あ〜、やっぱりダメだ。
イワナは追うのをやめ、しばらくその場に留まっていたが、やがて落ち葉の天井へと隠れてしまった。
良型の魚影は後にも先にもこの一尾、最後までロッドの曲がりを見ることはなかったのである。
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布川の通らず |
ルアー数種類使用したが・・ |
結局、朝一番に中津川で簡単に釣れたヤマメ、これだけが今日の釣果だ。
夕方4時半、ふたたび中津川へ戻ってみる。
早朝に沢山の釣り人で賑わっていた川原、今は閑散としている。
淵に向ってミノーを投げるとヤマメが2尾、勢い良く追ってきた。
魚は十分残っている・・・。
しかしミノーが流される速度が早くて追いつけない。
あと少しだけ日が経てば、活性も上がり楽しい釣りができるだろう。
僕の解禁は毎年こんなものだ。
青宇治橋にたった一台残された車に乗り込み夕闇の中を帰路についた。
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